interview *染めに関すること*

2008年7月31日

ここでは染めに関することをお聞きします。



田中:仁平さんは、いわゆる「草木染」で仕事をなさっているのですよね?
   しかし、私が見たことがある「草木染」とは少し違うような感じが
   します。


仁平:そうですか・・・

   私は基本的に注文制作でなければ、挿し色の一部に顔料を使う以外は
   草木染で染めています。

  (2001年9月のインタビュー当時。2010年ぐらいから着物の仕事については
   染色材料その他の環境により草木染は草木染でしか出せない色以外は
   化学染料による染め、挿し色、顔料による挿し色の仕事を多くしています)
  
   私は、他所の後染(生地に染をすること)の草木染作家さんの
   ものは殆ど見たことがないのです。
   織物の人の(糸を染める=先染と言う)のものや、古いものは見ます
   けども。

   私は、草木染をやっているからといって昔の染の再現を考えたり、
   自然主義でやっているわけではありません。
   もちろん、それぞれの立場でやっている方々に文句があるのではなく、
   私はそうではない、というだけの話ですよ。

   私の場合は「天然染料と媒染剤で染めをする」ということに過ぎません。
   天然染料が持つ情報量の多さが好きです。

   私は天然染料での染めが本物などと言う考えは全く持っていませんので
   用途や、要望によっては化学染料も使いますし、顔料や墨も使います。
   天然染料と化学染料を合わせて使うこともあります。

   もちろん、それはお客様には説明しますよ。
   天然染料ではないのに、天然染料で染めたというウソはつきませんよ(笑)

   100%草木染のものもありますし、化学染料を合わせてつくるものも
   ありますし100%化学染料のものもあります。

   ようは、良い染物にすることが大切で、天然染料原理主義ではない、
   ということです。

   草木染にこだわって、染物としてのクオリティを落としてしまったら、
   それは本末転倒ですからね。

   それに、化学染料というものは、染料の進化の一形態であるわけです。

   天然染料にも、化学染料にも、それぞれ長短あるわけです。

   染めの技法そのものの制約は美点と考えていますが、その材料まで
   こだわって染めの表現の幅を狭めてしまうのは、原理主義に陥って
   しまうと考えています。

   例えば、名画があったとして、その絵の具のメーカーや材質を問う
   人はいないでしょう?


田中:それはそれとして、いわゆる草木染という色とは違うと思いますが・・・


仁平:それは、単に染める人の個性だと思います。

   私は、化学染料でも草木染と同じような色を出せますので。
   しかし、どうしても草木染でなければ出ない色もありますけども。

   あとは、染め方も、いわゆる技法書に書いてあるようなことをして
   いません。
   独自の方法があります。
   とてもシンプルな方法で、スタッフでもちゃんと染められますよ。
   染料の煎じ方とか、濃度とかが違うと思います。
   といっても特別なものを使うとかそういったものではなく
   普通に言われている染め方とは「加減が違うだけ」ですけどね。
   
   秘密ではないので聞かれれば教えてしまいます(笑)

   草木染などは、何度も染めることが良いと言われていますが、それは
   実際には間違いです。

   どんな仕事でも同じですが、下準備をしっかりしておいて、可能な
   限り少ない回数で仕上げることは、一番良い結果になります。
   少ない回数で済むということは、摂理に沿っているということです。
   何度もやらなければならないということは、摂理に反しているという
   ことです。

   どんな職人仕事でも達人たちは同じことを言いますが、不思議と
   草木染に関しては回数が多いのがありがたい、と思われているの
   ですね。

   それはセールストークや物語ですよ。
   実際に過剰に何度も染めたら染めが悪くなります。

   もちろん、どうやっても50回、回数が必要なものはそれを短縮する
   ことは出来ません。


田中:なるほど。そういったことからも、違いがあるのかも知れませんね。
   少ない回数で決める、というのはその通りだと思います。
   それはどの仕事でも共通ですよね。

   草木染の染料は山から取って来るとか?


仁平:いや、基本的に漢方薬屋さんからや、染料屋さんから買います。

   草木染の染料はだいたい漢方薬なのです。
   
   糸を染める場合などは、いろいろな樹や草から染めることも可能ですが
   私がやっている生地を染める技法、また文様染などは、発色が良く、
   耐久性が良い染料を選んで使う必要があります。
   なので、昔から染料として使われていたもの=漢方薬で染料でもあるもの、
   を使います。

   だいたい、7種類ぐらいですね、普段使うのは。


田中:それだけの種類でこれほどの色数が出せるのですか?


仁平:天然染料では、一つの染料から、数種類の色「取り出せる」のです。
   昔なら、木の灰や、泥、その他のものを使いました。
   染料に染料を重ねる「染料媒染」というやりかたもあるようです。
   その地域独特のものを使ったでしょうし、そこで採取出来るものを
   当然使ったでしょう。

   私は引き染という技法を多く使うので金属塩の「媒染剤」を使います。
   これは化学的なものですね。

   その媒染剤の種類の分、色が出せるのです。

   それから、染料を掛け合わせたり、媒染をAからBという順番に使うと
   違う色が出せるとか、いろいろあります。


田中:なるほど、染材に元からいろいろな色が眠っているわけですね。


仁平:そうです。
   それを引き出してあげるわけです。

   一番分かりやすいのは「お漬け物」です。
   ぬか漬けの床に、釘やミョウバンを入れると茄子なんかは色が良く
   なりますよね。
   それと同じ原理です。

   まあ、とにかく、染めに関しても文様に関しても特別変わったことは
   していません。
   一般的に言われていることとは「加減が違う」だけで、秘密の何かを
   使うとかそういったことはありません。

   それに、もし、画期的な何かを発見したら、私はそれを公表して
   しまうでしょう。

   「技法はみんなのもの、感覚は個人のもの」だからです。

   私自身伝統から技法を学んでいるわけですから、私がそれを他に
   伝達しない、となったらそれは文化の停滞です。

   実際、特別な技法なんてないと思います。
   加減は無限にあります。
   その都度の加減の振り幅は大きく取っておく必要がありますけども。

   もちろん、常に改善しようと努力しています。


田中:なるほど。
   お漬け物ですか。確かに分かりやすいですね。

   技法に関しても、その通りですね。
   焼き物でも、ようは粘土を形にして、焼く、ということで出来上がる
   わけで行程そのものは実はシンプルなのですよね。
   その加減は無限にあるわけですが。

   染も、恐らく布が染まれば良い、というわけで、それに対する
   アプローチは無限にあり、その加減は常に移ろうわけですね。


仁平:そうです、そうです。
   
   方法から産まれるのではなく「良く仕上がるように加減する」という
   ことなのです。
   なのである時には、うまく行った方法が、次回にうまく行くとは
   限らないのです。

   だから、素材の移り変わりを良く観察することが大切です。
   観察不足の失敗もまた、あります。
   後から検証して「ああ、あの時の素材のサインを見逃したんだ」と
   反省したりします。

   もちろん、どうして失敗したか、原因が全く分からないことも
   ありますし、外注先で失敗されてしまうこともあります。
   何にしても、常に注意深くあることが大切ですね。


田中:なるほど、そうですね。
   それにしても、お話を聞いていると、とても当たり前なことだと
   感じます。
   しかし、新鮮ですね。


仁平:そうですか?
   それは、きっと、作家さんたちを取り巻く「物語」が一人歩きして、
   そこで商売をしている人が多いからかも知れませんね。


田中:確かにそうかも知れません(笑)
   あまり専門的なことをお聞しても大変ですので、染めに関することは
   このへんで。


仁平:そうですか?聞かれればいくらでも・・・。
   いくらでも具体的に話せますよ。
   見本もお見せしましょうか?


田中:いえ、今回はここで止めておきましょう(笑)


仁平:そうですか。


(2001年9月当時のインタビューです)


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