染織家の中野みどりさんの作品集が届きました!

2012年5月3日



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先日、紹介させていただきました、染織家の「中野みどり」さんの作品集が
私のところへも届きました。

内容を拝見して、ふんわりと感動しました。
中野さんの織物自体は、孤高といえるぐらいに厳格な部分もあるのですが
人を脅しつけるようなものではなく、むしろ包み込むようなものです。

作品写真が丁度良い分量あり、中野さん自身の解説もとても的を射たもので
工芸に興味がない人にも分りやすく、新鮮です。

中野さんの書かれた文章は、自然で、日々制作に向かう真摯さに裏付け
された、しかし人に押し付けるようなものでない、明快なものです。

中野さんは、いわゆる◯◯主義、という姿勢で作品には向かってないのだと
思います。

私は中野さんと、パートナーの工芸評論家の笹山央氏とは何度かお話をして
いるわけですが、今回、まとまった作品と文章を拝見してあらためて
思ったのは

「何の解説もなく中野作品に対峙した時に感じたことと全く同じことが
 中野さん自身の言葉で解説されている」


ということです。

そう、中野さんは姿勢と作品に分離がないのです。

中野さんの織物は、中野さんのおっしゃる通りに作られ、その通りに
なっているのです。

これは当たり前と思う方が多いかも知れませんが、実際には大変なことです。

私が初めて中野さんの作品を拝見した時に、全体としての完成度と
糸一本一本への目配り気配り、技術的完成度を持ちながらしかしそれは
職人芸的な「芸」を超え(基礎技術や姿勢はむしろ厳格)飛翔している
印象を持ち、本当に感心してしまいました。

+++++++++++++

織物の仕事で、紬糸のような複雑で一定でないものを完全に扱うには
例えば、糸一本一本、糸の1cm単位を観察して組み立てたとしても
達成されません。
それでも間に合わないぐらいの情報量を紬糸は持っているからです。

紬糸の質感、太さ、さらに色、元々均質でない糸の経緯の交差、情報の
累乗が重なって行くのですから、もし一つ一つのことをイチイチ確認して
いくような姿勢でやっても、ただやることが増え、こなしきれないで
未完成な作品で終わってしまいます。
普通はそのような部分は、長年の経験や伝承で埋めて行くわけです。

しかし中野さんは、そんな人ではありません。

中野さんは、

「最初から最適な量を手でざっくりと掬えてしまう人」

なんですね。

超一級の棋士などにもある、実際に説明すると膨大な数式のなかにあるものが、
イメージとして掴まれ、それを大きく捉えて進行させられるような感じです。

一つの方式、感じ方、そういうことに固定されない。
その時その時に感じたことを自由にして、しかし逸脱がない。

「その自由のあり方が中野さんそのもの」

ということです。

糸や素材、そして何より中野さんの織られたものをお召しになる方々への愛情。
それを強く感じます。

制作にあたって全体を感じ、細部も同時に感じ、
使う人たちへの愛情もその向こう側に大きくあります。
それが全く自然に表現されています。

【表現】とは主義主張を表すことではなく、そのような制作者の愛情が形に
なって表されることそれ自体が【表現されるべきこと】ではないのか?
(それが一方的ではなく機能していること)

私はその姿勢が最も古びない、新しいものだと思います。

(文中に「私の着物だけを観たら、一つ物足りないと感じるかも知れないけども、
 それは人が入る余地を残しておくため」という意味のことが書いてありましたが、
 それは本当にその通りだと思います)

織り上がりは一貫性があり、ブレがない。
しかし良く観ると、その都度の感覚の動きがあり新鮮で奥行きがある。

「中野さん自身の感覚的整合性と織物の構造的整合性が一致している」

(苦もなく全体を把握し、新鮮に織物をし、それが理にかなっている)

(もちろん、制作のご苦労はあると思いますが)

「理にかなっているからこそ、軽やかに自由に観える」

「自由だからこそ、理にかなっている」


それは大変に高度な世界です。

しかし、その世界は、むしろ人を包み込むようなものです。
草木の間を吹き抜ける春風が人を包むように。

中野さんの着物や帯は「いわゆる呉服」ではありません。
それとは別のもので、なおかつ定義も出来ません。
それは布であり、衣服であり、使う方の伴侶であり、中野さんの作品です。
それだけです。
自由なものだから。

++++++

それと、この作品集の見所のもう一つは、着付けとモデルになって下さった
中野さん作品の所有者の方々です。

この本のなかの方々はモデルではありません。
着付けもそれぞれに普段着られるようにされたそうです。

だからこそ、なのでしょうが、着物も、お召しになられている方々も
なんともリアリティがあって瑞々しいのです!

着物は人が着ることにより、より魅力を増し、着た人は着物を着たことにより
瑞々しさが増幅されているのです。。。

この人と素材が等価に引き立て合うのはとても日本的です。。。

人の凹凸が自然に出た着姿、自然によったシワ、傾き。。。
それらが布を引き立て、同時に着る人の生命感を増幅させています。

私は勝手に「中野さんの着物や帯は人がその人自身を発見するのに
背を押すような存在だ」と言っていたのですが、それはあらためて
正しかったと思いました。

そう、ようするに、中野さんは、ご自身がそうおっしゃるように
分離なく作られているわけですからそうなるわけです。
私はその事実を観たまま言っているだけです。。。。

+++++++

私が多く語るよりも、是非多くの方に手に取っていただきたいと
思います。。。

中野さんの自作の解説、考え方、そしてパートナーの工芸評論家・笹山央氏の
文章も工芸や美術に興味のない方が読まれてもとても分りやすい明快さで
楽しく参考になることと思います。

。。。。。。。。。。

(編集をされた工芸評論家の笹山央さんからこの記事にコメントをいただきまして
 ちょっと身に余るお褒めを言葉をいただきましたが、それは置いておいて、笑
 この記事に付け加えたいと思ったことを以下に加えます)

〜(略)着る人と着物が互いに引き立てあうことについては
仁平さんも書かれてますが、それに加えてもうひとつ
私が発見したのは、いわゆる日本家屋の空間と中野さんの
着物とが実に快適に響き合うのですね。

このことは、可喜庵という江戸末期に建てられた古民家での
「即席茶会」のシーンの写真を撮っていた時に実感されました。
その空気は本書の写真でも感じ取っていただけると思います。
着物の世界の深さということについての、新たな視野を
提示してくれています。


。。。。。。。。。

そうです、それもありました!
笹山さん、記事の内容を補強して下さってありがとうございました!

。。。。。。。。。

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以下のサイトから、注文を受け付けていらっしゃいます。

【かたち21】

(中野さんのパートナーの「笹山 央」氏主催の現代の工芸の方向性を
 提示、行動する会です。この作品集の企画編集元です。)

【かたち21内の中野さんのページ】

上記ページから詳細をご覧下さい。

あるいは直接メールにて「かたち21」さんに中野さんの作品集の件と
お問い合わせ下さい。

katachi*mbr.nifty.com(*マークを@に変えてお使い下さい)

++++++++++

『中野みどり作品集 樹の滴――染め、織り、着る』

A5判 本文88頁(カラー28頁)
カラー写真は高精細印刷 並製本
定価 2,940円

【主な内容】

*草木染紬織の着尺と帯20点を掲載しています。

・着尺作品集

・着姿作品集

*各作品毎に著者のエッセーを兼ねた解説付きです。

*櫻工房における製作工程の概略、および「紬塾」についての案内
があります。

ー本文からー

私は作品を作るときにはいつも着ることを意識して作っています。
いつ、どんな場面で、どんな方に着てもらおうかと考えながら作るのです。

さらには着物でも帯でもどんな取り合わせにするかを、大まかにですが
設定してかかります。

もちろん特定の誰かということではなくあくまでもアバウトなのですが、
大きく「着る」ということを思い浮かべて仕事をすすめています。

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【出版元】
染織と生活社
600-8427
京都府京都市下京区松原通烏丸西入
075-343-0388
URL http://senshoku-alpha.jp/

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“染織家の中野みどりさんの作品集が届きました!” - 4件のコメントがあります

  1. 笹山 央 Says:

    『中野みどり作品集――樹の滴』の編集を手伝った笹山です。
    本の紹介をありがとうございます。
    中野さんの織物についての感想・論評は、いつものことながら、この上なく正鵠を得ていますねえ。感服しました。
    私は今まで、本当のところは他人の論評文に脱帽したことはありませんが、今回の仁平さんの文章には脱帽します、ということを心の底から表明いたします。
    仁平さんは作り手と評論家の二股がかけられる、稀なタレントをお持ちであると実感しています。

    編集を手伝った人間として一言。実は着物のシワのことが気がかりのひとつでした。いわゆる「プロ」を自称する人たちからアゲアシとられるかなと思ってましたが、仁平さんがきちんと評価していただいたのが、大変うれしく思います。
    まさにおっしゃる通りで、私も商業雑誌のようにシワのない木目込人形のような着付けには辟易としておりました。というか、あれは着物文化というものをむしろネグレクトしていて、着物に対する拒否感を生み出す主要な要因のひとつになっていると思います。中野さん自身も、ふだんから、もっと楽にシンプルに着ればよいと言っていて、そのアドバイスに従った人たちは、着物の魅力に目を見開かされていくことが多いようです。この作品集が、着物文化に対する瑞々しい自由な感性を育てていく契機になることを願っております。

    それからもうひとつ、着る人と着物が互いに引き立てあうことについては仁平さんも書かれてますが、それに加えてもうひとつ私が発見したのは、いわゆる日本家屋の空間と中野さんの着物とが実に快適に響き合うのですね。このことは、可喜庵という江戸末期に建てられた古民家での「即席茶会」のシーンの写真を撮っていた時に実感されました。その空気は本書の写真でも感じ取っていただけると思います。着物の世界の深さということについての、新たな視野を提示してくれています。

    長々と、失礼いたしました。  笹山


  2. foglia Says:

    笹山さま、コメントありがとうございます。
    いや、的外れなこと書いて、中野さんと笹山さんに
    怒られないかとちょっとヒヤヒヤしていましたが(笑
    逆に過分なお褒めのお言葉をいただき恐縮してしまい
    ます。。。汗

    笹山さんが書いてくださった、中野さんの作品と
    日本建築との親和性と増幅のお話、記事に付け加えさせて
    いただきました。
    ありがとうございます。

    着付けのこと、本当にコメントに書いていただいたように
    私も思います。
    それが作品集のなかで明快に証明されていることにも感銘を
    受けました。

    この作品集は静かに破壊的です。
    自然の水流が岩を削るような。。。


  3. 中野みどり Says:

    仁平さん、お忙しい中こんなにたくさん^ヮ^書いてくださってありがとうございます!

    身に余るお言葉のようにも思いますが、実は誰のものでもない自然な営みに添っていけばいいのだということだと思ってます。
    作るにせよ、着るにせよ。

    「この作品集は静かに破壊的です。
    自然の水流が岩を削るような。。。」

    涙が滲んできました。。。;ーー;

    今後も自然体で精進していきます。
    ありがとうございました。

    中野みどり


  4. foglia Says:

    中野さま

    私の方が、眼を洗われる機会をいただきました。

    ありがとうございます。。。m(_ _)m


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